秋冬は風で物悲しい気持ちに。理由は分からないけど心に刺さる何か。
暑いほどじゃなくて、さむいほどじゃなくて、だからといってぬるくもない風が、秋や冬に吹く。
暑かった時期から、さむくなる秋。さむかったけれど、温かくなる冬。その境目あたりに吹く風が、私は好きだけれど、嫌いです。
理由はわからないけれど。
何て言えばいいのか、なんだかとっても、心がしめつけられる風。
長そでを着ているのに、こんなあたたかい風、というのはなんだか、かなしいものを思い出させる気がする。
私は小さいころ、腎臓病になってしまって、入院しました。そのせいか、しばらく体が弱くて、すぐに風邪をひいていました。季節の変わり目になると、いつもそう。
すぐに熱を出して、寝込んだ。
その時に母が、やさしく看病してくれたことを思い出す。
いつもは、2階の2段ベッドで寝ていたけれど、風邪を引いた時は、看病しやすいように、いつも1階の、縁側に面した庭が見えるたたみのへや。
布団をいっぱいかぶって、着こんで。でも、それじゃ暑いから、縁側の窓を網戸にして開けていた。
涼しいような、ぬるいような、でも身体は熱い。
母は、子どもたちが寝込むと、いつもメープルシロップと、すりおろした大根を絞った汁を混ぜ合わせた飲み物を持ってきた。
これが甘いのに、とてもからくて。
それを飲みながら、吹き付けてくる風。
母のやさしい笑い顔。
母のつくる、胃にやさしいあたたかいうめぼしのちょっと乗ったおかゆ。
何もかもが。泣きそうなくらい好きだった。
あの時も母は、ずっと無理をしていたのだろうか。
誰かに献身的な気持ちを注ぐたびに、注いだ分の見返りの無いやるせなさで、心を壊していったのだろうか。
私は、私たちは。
たぶん、母にその想いをちゃんと伝えることが出来なかった。
母は、いまはもう、あの家に帰ってくることはない。
借金をつくり、家をとびだし、宗教にはまった。
帰ったら、いつも笑って話を聞いてくれた母を、もうきっと、見る事はないのだと思う。
そんな状況を苦しいとか、つらいとか、かなしいとか。
そんな感情もうないし、なんとも思わないけれど。
ただ、この風は、どことなく、こころに、ささる。